story
自分の”始り”を知る者は少ない。 ただ日々の繰り返しの中で、今日まで生きてきた。生きてしまった。
彼の一刺しで人は”始まる”。 見えないルールとつながっていた幼い児の、疑いを持ったその胸に、 刃は深々と刺さり、自分の一部を失う。
ぽっかり開いた胸の痛みに耐え、ふさぐものを探すことで、人として生き、人らしく生きられる。
探す忍耐を無くした者を、彼は許しはしない。 欠損の痛みに姑息の蓋をして、 良くも悪くもなれず、天国へも地獄へも行けず、 薄暗い平原をさまよう者を、彼は許さない。
痛みを思い出させるために、いつか彼は太陽の方向から急降下して、
見せかけの蓋を貫くだろう。
天に向かって投げた石が、再び自分の額を撃つように。